元プロ選手だからこそ発信したいこと
はじめに
J3のいわてグルージャ盛岡に所属していた福田友也と小谷光毅。
2人は現在、品川CCに活躍の舞台を変え、奮闘している。
移籍決断の経緯、そしてJから社会人チームに移った彼らがどんな生活をしているのか、今後何を発信していきたいのか、対談形式で話を聞いた。
チーム哲学に共鳴し、移籍を決意
―ともに移籍前のシーズンは全試合に出場していた主力だったわけですが、品川CCでプレーすることを決意した経緯を教えてください。
福田:自分はJリーグの中での自分の立ち位置を理解していたつもりですし、一生サッカーだけで生活をしていくことはできないということはプロになった当初から考えていました。
30歳という年齢も考えれば、違う環境に身を置く最後のチャンスなんじゃないかという感覚があって決めた形ですね。
はじめは移籍先をどこにするかということよりも、完全に就職のほうに軸足がありましたが、縁あって品川CCのことを聞いて、そのフィロソフィーや環境面を知って「しっかり仕事をしながらサッカーができるのであればチャレンジしてみたい」という考えに行き着いたのが最終的な決断につながりました。
小谷:サッカーと仕事、両方やりたいという気持ちの中で、サッカーでいえば上のカテゴリーに行けるかどうかというのが非常に大きな要素でした。
自分の中ではその最大のチャンスが去年だと思っていたので、その可能性がなくなってきたときにもう1年いるという選択肢はありませんでした。
僕にはキャリアに区切りをつけるとか、セカンドキャリアとかの概念がなくて。
やりたいことをやって生きてきたし、生きていきたい。
実際、大学卒業して証券会社に入って、そこからプロになりましたけど、それも単なるキャリアチェンジですし、いちばん行きたい道に行った結果です。
それが今回は今働いている会社と、品川CCだったということです。
社会人としての生活スタイル
―2人はどんな会社に勤めていて、どんな業務を行っているのですか?
小谷:僕は株式会社マネーフォワードという会社で働いています。
主な業務は士業の方や企業の業務効率化を図るためのクラウドサービスの営業です。
福田:大手広告会社のWEB広告営業をしています。
コロナ禍前は飛び込み営業でしたけど、以降はテレアポが多くはなってきていますけど、自分は対面が得意なので、そこはケースに合わせてというかんじですね。
―現在はどのような生活スタイルを送っていますか?
福田:今はリモートワーク中心なので、午前中はオンラインでの会議やミーティング、自分の事務仕事をしています。
午後からは会社に行くか、自宅でテレアポか、商談があればそこにいくか、という流れです。
仕事を終えてから品川CCの練習に参加します。
緊急事態宣言が出ていた時はだいたい19時から1時間、普段は20時30分から22時までトレーニング。
自分は週5日練習していて、オフの月曜日にパーソナルトレーニングで筋トレなどを行っていますね。
小谷:5時に起きて、朝ごはんを食べて、インプット系や準備は朝にしています。
そこはプロだったときとまったく同じですね。
会社は現在、原則的に週1回の出社なので、基本的には自宅での作業がベースで、自分の仕事のペースやタイミングに合わせて会社にいっています。
そこから練習に出て、22時30分には寝ます。
眠くなったら何もしないと決めています(笑)。
福田:自分は夜型なので、ちょうどコタが寝るくらいから活発になってきます(笑)。
でも、自分も朝にインプット系はやりますね。いちばん生産性が高い時間帯なので、そこは同じです。
両立に苦はない。むしろ相乗効果を感じる。
―仕事との両立で大変だなと苦労しているところ、または意識していることはありますか?
小谷:本当にそう感じることがないんです。友くんはある?
福田:そんなにないね。仕事とサッカーはまったく別物とみられることが多いと思うけど、自分の中ではつながっている部分も多くて。
その中でバランスを取ってやれていると思います。
時間は完全に分けられているので、逆にリフレッシュになって、どちらにも集中できるというか、メリハリができて良い効果の方を感じますね。
小谷:練習の開始時間までに仕事は終わらせないといけないので、それを逆算した予定を立てることは常に意識していますね。
僕も友くんと同感で、むしろ、練習がない日の方が家に帰ってからの疲れを感じるくらいです。
―仕事とサッカー、お互いにいい相乗効果を生み出しているのですね。とはいえ、両方をしっかりこなすためには時間というのがより貴重になってくると思いますし、そこで苦しむ元プロ選手も多いと聞きます。2人の時間の使い方や作り方に関しての考えを教えてください。
福田:品川CCのチームメートでも、両立とか適応に苦労している人っていうのは、時間の創出やスケジュールの管理がうまくいっていないケースが多いと思います。
仕事、サッカー、どちらかに比重が偏り過ぎていると感じたりもします。
小谷:今やるべきことと、あとでやればいいことの線引き、優先順位をつけるのがうまくいっていないのかもですね。
福田:1日、1週間、1か月のスケジューリングがうまくできていないんじゃないかな。もちろん、その都度調整はしますけど、自分は基本的にはスケジュール通りに進めたい。時間がズレたりするのが嫌なので、吉田(祐介GM)さんにも細かくチェックしますね。
小谷:僕も時間が伸びたりするのがすごく嫌です。
この生活になって余計感じます。「この時間あったら別のことができたのに」って思っちゃいます。
アスリートの価値を高められるように。 そのモデルロールを築き、発信する。
―2人は2018シーズンにいわてグルージャ盛岡でともに戦っていますが、久しぶりに再会して感じた変化などはありましたか?
小谷:フィジカルはまったく変わってないです。ただ、なぜかプロの時以上に、守備はガツガツくるようになっていました(笑)。
―それはなぜ?
福田:フィジカル面はプロの時ほど負荷が高くないし、長距離の移動があるわけでもないので、調整できる幅が広がったからというのもあります。
ガツガツ行くのはやっぱりみせなきゃいけない立場にいるので、そこは意識していますね。
小谷:岩手では友くんと半年間チームメートでしたけど、練習で削られたことなんて一回もなかったです。
でもここにきてまだ2か月くらいなのに、4回、足の裏みせて削ってきましたからね(笑)。家に帰って足をみたら真っ青になってたり。
福田:一発目の紅白戦からいきました(笑)。周りの選手にもコタに遠慮しないで当たりに行っていいんだよ、というのをプレーでみせる意味もありましたけどね。
ー品川CCというクラブについてはいかがですか?共鳴した部分、共感した部分を教えてください。
小谷:サッカーも仕事も全力で取り組む部分が一つ。
加えて、アスリートの社会的価値を高めていこうというコンセプトにすごく共感しています。
今はプロクラブ化を目指す地域のクラブも増えてきています。
確かにそこにも価値がありますが、このクラブはアマチュアとしてサッカーをする人にフォーカスしています。
自分たちのような元プロの選手や、プロになれなかった選手たちがプレーして、いろいろなことを発信していけるクラブだし、選手の価値を高めていけるクラブだと思っています。
クラブだけでなく、勤務しているマネーフォワードも僕の活動を理解して、後押ししてくれている会社なのでこの環境に決めました。
アスリートの社会的価値をさらに高めていきたいという思いは、証券会社を辞めてドイツでプレーした後、日本にきて、岩手にわたって、強く抱いていたことです。
自分がプレーしていたドイツ5部ではみんな仕事をしながらサッカーをして、それが文化として当たり前に根付いていたので、元プロだから仕事ができない、就職に苦労する、そういうことがありませんでしたね。
日本でも企業から「元プロサッカー選手だからほしい」という風に見られ方が変わるような発信をしていきたいと思っています。
福田:今、コタが言ったことが自分も共感した部分です。
サッカーも仕事も両方やっているということが自分の価値になって、両方の舞台でそれを証明できるというのは意義深いことだと思います。
―これまでの経歴、立場、そして仕事とサッカー両面で活躍できる環境にいる中で、2人が発信していきたいことは何ですか?
小谷:世の中に対しては、元プロ選手でも企業で活躍しているし、サッカーでも活躍しているよ、ということを証明していきたい。
もう一つ、アスリートに向けては、もっと自分から情報を獲得しにいってほしい。
アスリートのセカンドキャリア支援というのも話題になることがあると思いますけど、個人的には何かを待つ、受け身な選手が多い印象です。
積極的に情報を得たい、成長する場を求めているという人に対して手を差し伸べるのが本質なので、アスリート側の意識と行動を変えられるような発信もしていきたいと考えています。
―そのためにもサッカーではより発信しやすい場所、カテゴリー、立場にいるっていうことが大事になります。
小谷:そうですね。
やっぱり一つの成功モデルじゃないですけど、「あの選手はこう取り組んでいたから、こうなれたんだ」という例がたくさん出てくることで、アスリートも行動の指針みたいなのができてくると思うので、そういうところも体現していければ。
福田:サッカー選手、スポーツ選手って、「競技しかしてこなかったんでしょ?」「ほかのことはできるの?」といったイメージがまだまだ強いと思うので、「サッカーもできるけど、やめた後、あるいは並行しながらもこんなことができるんだよ」ということを証明したいですね。
サッカーにおいては、Jリーグ、プロ選手になることももちろん大事。
でもそれだけがサッカーのすべてじゃないと伝えたいです。
ほかのリーグ、カテゴリー、環境であっても素晴らしいサッカーっていうのはある。セカンドキャリアというか、ビジネスのところでいえば、「現役の時にこういうことを考えておくことが大切だよ」とか「こういうことを準備しておくと選択肢が広がるよ」というところを発信していけたらなと思っています。
小谷:社会人のサッカー〝も″いいよ、っていうのを発信したいですね。
元Jリーガーで、現在は社会人の僕らだからこそ、Jも素晴らしいし、社会人サッカーも素晴らしいことを知っている。
どちらかを否定することなく、その良さを伝えていきたいと思います。
プロフィール
生年月日:1992/9/10
出身地:埼玉県
経歴:
皆野SS
FCコルージャ
正智深谷高等学校
国士舘大学サッカー部
FC町田ゼルビア
グルージャ盛岡/いわてグルージャ盛岡
現職:
大手広告会社 営業職
生年月日:1993年4月25日
出身地:大阪府
経歴:
TROPPO FC
ガンバ大阪Jr.ユース
ガンバ大阪ユース
明治大学体育会サッカー部
BCF Wolfratshausen
VfR Garching
グルージャ盛岡
ブラウブリッツ秋田
いわてグルージャ盛岡
現職:
株式会社マネーフォワード 営業職
取材・文:髙橋拓磨(たかはし・たくま)
1981年4月16日生まれ。岩手県釜石市出身。
編集プロダクションを経て、2010年よりフリーランスとして活動を開始し、岩手県内の育成年代からプロまで幅広く取材。
2015年からはサッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」でいわてグルージャ盛岡を担当するほか、「Jリーグ検定2021」の編集にも携わる。
サッカー専門誌やWEB媒体、岩手県のスポーツ雑誌「Standard」で岩手のサッカーを発信している。