【インタビュー】品川CCリブランディング対談 ワークライフスポーツ稲垣秀行×品川CC吉田祐介
はじめに
こんにちは。広報チームです!
品川CCは4月にリブランディングを実施し、リニューアルしたロゴ、エンブレムが誕生しました。
その中でこのリブランディングについての詳しい背景と意味、そしてスポーツクラブ経営における「経営理念の大切さ」を広く皆様に知っていただきたいという思いから今回、リブランディングのコンセプト作成に携わったワークライフスポーツの稲垣秀行さんと、当クラブの吉田GMで対談を行いました。
インタビュアーには吉田GMの友人で元山形放送で長く活躍された山下将史さんをお迎えしました。
リブランディングの背景とその意味について熱く熱く語った2時間。サッカーに関わる皆さん、品川に関わる皆さん、全ての皆さんに読んでいただきたい内容となっております。
それではどうぞ!
ブランディングに先立って
ー早速ですが、今回リブランディングするにあたり経営理念を再確認する作業をされたとのことですがその背景ってなんだったのでしょうか?
吉田:正直に言うと、つぎはぎだらけの限界を感じたというのがまず一つかな。今年品川CCが創設されて15年目になるけど、当初はサッカーだけのクラブチームだったんだよね。ただ今の品川CCはサッカーだけでなく、バスケやチアチームなど色々なチームもできたというのがあって。多様な種目や様々なカテゴリーができた今、改めてクラブとしてのあり方とクラブに対する想いを再認識をしたかったんだ。ありがたいことにサッカーだけ見ても選手とスタッフが昔には想像もしなかったほどに増えたし、我々の統一した意思をよりわかりやすく伝えたかった。そしてサッカークラブではなく、これがカルチャークラブだと示したいという思いもあった。クラブ全体でわかりやすく、統一した意志を持ちたいと強く思ったんだよね。
稲垣:うん、そうだね。祐介とは2002年の日韓W杯で知り合ってから、連絡は取り合ってていたので、カルチャークラブ(品川CC)についての祐介の思いは聞いていました。サッカーだけではなく色々なチームが増えたし、1.5キャリアのあり方を含め、一度整理した方がクラブとしての方向性が明確になるんじゃないかなと個人的にも思ってはいました。
ーリブランディングして約3ヶ月、効果は感じていますか?
吉田:正直、まだわからない部分も多いな。ただ一つ明確なことはクラブが所有する全種目、全カテゴリー同じエンブレムを背負っているということへの実感は大きいかな。これまではサッカーもバスケもロゴがバラバラだったんだけど、クラブとして一体になったことを再認識したね。カラーも統一して同じクラブなんだという意識の向上、というのが現時点で感じている効果の一つかな。
稲垣:今回は、そのロゴやエンブレムの見た目のデザインも大切なんだけど、それ以上に、その裏側にある文脈をいかに言語化するかが重要だという認識を共有して話を進めましたね。
ーロゴ、エンブレムは理念の象徴ですもんね。今回の品川CCのリブランディングにあたって、それはどのような形で理念の再認識を行い、その意味づけを行ったんですか?
吉田:稲垣さんと品川CCのコンセプトについての議論を何度も重ねた上で見つけていった感じかな。
稲垣:“ブランディング”はどちらかというとキャッチコピーや綺麗な言葉とか、ロゴとかイメージが評価されがちな現状があるように思っていました。でもただ見た目がかっこいいだけではダメで、そこにしっかり筋が通ってないといけない。ロゴやキャッチコピーのおしゃれさと実態が伴わないケースはよく見られますよね。
だからこそ、その筋の定義づけというのは非常に大切なことなんです。品川CCはしっかりとした実態があるクラブですからね。世の中におしゃれなものはたくさんあるけど、僕は祐介や品川CCに関わる人たちがこれまでの活動に込めてきた思いにしっかり筋を通して表現しようと思ったんだよ。
デザインの意図や背景をわかりやすく第三者に伝えたい、そんな思いが原動力かな。
吉田:思い返せば旧エンブレムは1週間で作ったんだよね(笑)シンプルなモノを10年使い続けたんだ。
ー1週間ですか!今回はどれくらい議論を重ねたんですか?あと、なぜこのタイミングで変えようと思ったんですか?
吉田:去年の夏頃から議論は始まったね。タイミングというよりどちらかというと使命感。このクラブが大きく変化したのはこの2、3年なんだよね。クラブが大きくなるにつれて関わってくださる方がクラブ内外でたくさん増えてきた中で、変えなきゃいけないと考えるようになったからかな。
稲垣:しばらく祐介と会う機会がなくて久しぶりに会った時に、それまでの主語が“オレ”がだったのが、“周り”、“みんな”に変わったなと感じたんですよね。今から考えると、これが大きなポイントで、品川CCが祐介個人から関わるみんなのためのクラブになってきた証拠なのかと。きっと祐介が、これまで、ビジネスの世界でも経営に携わってきたことで、周りのことを見ながらの言葉に変わっていったんだろうなと。
特に印象に残っているのは、2018年ロシアW杯の時。それまで日本代表の試合のゴール裏にはほぼ全ての試合にいたイメージの祐介が、ベスト16のベルギー戦に進出が決まったにもかかわらず、「品川CCの試合があるから」という理由で帰国したんだよね。サッカー界の最高峰の大会の応援よりも優先する、大切なクラブに品川CCがなったんだなと。オーナーだから必ずしも試合の現場にいなくてもいいはずなのに、それでもロシアから帰ることを選択したことに驚いたし、祐介の変化を感じましたね。
吉田:そういえばそうでしたね(笑)
稲垣:いつまでも品川CCが「吉田祐介のクラブ」のままではダメだと僕は思うんです。会社も同じで、創業者が後継者へと経営を引き継いでいくことで老舗となっていくように、50年後や100年後にも品川CCがあり続けている、持続可能なクラブを目指す。そのためにも、特定の個人に頼らなくても持続可能な経営の仕組みを作ってほしい。
もちろん、自分のやりたいと思う形でクラブを続けることも一つの形だと思うけど、祐介は、品川CCはもっと多くの人が関わるパブリックなクラブを目指す選択をした。
多くの人が関わるようになった時、クラブが大切にしている“想い”を正しく伝えていかないと違うクラブになってしまう。その想いを表したものが理念だと思うんです。ロゴのようなデザインは、時代に合わせていつか変わることはあるかもしれない。だけど、、どんな時代になっても変えてはいけないものってなんだろうと考えたとき、一番大切な、変えてはいけないものって、立ち上げた当時の人たちの想いなんだろうなと。
だから、今回の支援でも、祐介と今このクラブに関わる人たちとの話す時間を何度も重ねて、まずは僕自分が、品川CCについてブレない“これ”というものを見つけることが重要だと考えて進めるようにしました。
ー実際にどんな過程を踏んだんですか?
稲垣:祐介の他に品川CCの経営に近いメンバー5人と、ワークショップや個別インタビューを通じてそれぞれの想いや考えを聴きました。聴いた内容を整理してわかったことは、それぞれが考える品川CCの方向性って意外とバラバラだったという事実です。ただし、これはどの企業でもクラブでも大方そうで、バラバラであること自体はこの時点で問題ないんです。大切なことは、その考え方や方向性の違いを客観的に見えるようにすること。そこからがスタートで個々の想いをすり合わせていく過程が重要だと考えています。だからこそ、これを機に、クラブ内外を問わず品川CCってどんなクラブチームなのか統一させていく必要性を意識することができたと思います。それぞれから出てきた意見を祐介に見せて、僕自身の第三者的な視点も入れて今後目指すべき方向性について対話を進めてていきました。
エンブレム・コンセプト誕生秘話
ーその対話の後で、品川CCのエンブレムが形になっていったわけですね。
吉田:ホームタウンの天王洲〜品川を稲垣さんが一人で視察をしてくれていたんだ。知らないうちに(笑)
稲垣:それぞれの思いはインタビューなどで訊けたので、次は、品川CCのホームタウンである「港区港南」という地域がどんな街なのかを体感したくて、品川駅の港南口をスタートに天王洲アイルや北品川駅周辺まで、写真も撮りながらグルっと歩いて廻りました。
僕自身、全く土地勘がなかったので、改めて感じたことは、意外と品川駅と天王洲って近いんだなといった発見や、それぞれの地域で見せる顔がかなり違うんだとか様々なことに気づいたんだよね。タワーマンションのエリア、アートなエリア、江戸時代からの宿場町のエリア、ビジネス街のエリア・・・たくさんの顔があることがわかった。
そんな街歩きをしている中で、ふと「今日何本の橋を渡ったかな」と思って、そう考えると、この品川・港南エリアと言うのは、「橋がないと繋がらないエリア」なんだと、自分で歩くことで気づいたんですよね。
“繋がり”とか“繋がる”って言葉自体は世の中にありふれているけれど、この港南地域に根ざす活動を進めている品川CCのコンセプトとして「つなぐ⇒橋」という連想がとても僕の中でしっくり腹に落ちてきたんです。
そうなると、1.5キャリアで選手たちとつなぐ、違うスポーツをつなぐ、文化をつなぐ、次世代につなぐ、全て“つなぐ“という想いで品川CCが今までやってきて、これからもやろうとしていることを表現できるんじゃないかと。これは単なる思いつきではなく、きちんとその意味を説明できるし、決して浅い話にはならない。そして「橋」はまさに「つなぐ」ものとしての象徴にできる。だから、「これだ!」と思って提示をしました。
吉田:提示してくださって一瞬で決めましたね。オレも腹落ちしました。
稲垣:地域ごとにそこに住む人でないとわからない雰囲気というものがあると思っていて、僕のような第三者がその地域に関わる場合、肌感覚を大切にするようにしています。今回の支援でもインタビューだけで想像でまとめることはよくないと思って、実際にその街を歩いてみないと品川CCの皆さんの想いをうまく反映させることはできないと考えて、実際に足を運んだことが大きなターニングポイントになりましたね。。住宅・アート・ビジネス・・・・競技を超えた部分も含めて「つなぐ」という言葉で収斂することができたし、それが僕にとっても面白かった。「橋」と「つなぐ」という言葉が自分の中でリンクして、説明ができるようになったことで、提案したコンセプトの正しさに自信を持てるようになっていたという感じですね。
吉田:この話を港南地域に住んでいる人たちに話したときにわかってくれるのが嬉しかったなぁ。長く住んでるとわからない部分もありますよね。再認識して「あっ意外にそうだよね」といった発見が見えたのもまた良かったですね。
稲垣:「わかりやすさ」や「深み」、「カッコよさ」といった要素を共存させることは結構難しくて、ありがちなワードみたいなものは嫌だったんだけれど、これはそうではなく使えるなと。つなぐ象徴としての橋。品川の港南地区だからこそのつながる。また電車とバスだとわからない。これは、歩いてみたからこそわかったことですね。
そしてこの時にかいた汗がエンブレムに反映されてます(笑)
ーその後、本格的にこの形になっていったわけですね。
稲垣:僕が経営理念策定の際に使用する基本フォーマットは次の4つの項目です。
・ミッション ⇒ 私たちの想い・使命 (何のために、私達は集まり、何を実現したいのか?)
・ビジョン ⇒ 私たちが目指すもの (10年後に実現したい姿、状態。絵に描けるもの)
・バリュー ⇒ 私たちが大切にすること(意思決定の際に「物差し」となる価値観)
・プロミス ⇒ 私たちが約束すること (ミッション、ビジョンを実現するための行動規範)
一般的にはミッション、ビジョン、バリューの3つで表すことが多いと思いますが、プロミスまで考えることで、経営理念を絵に描いた餅にせず、理念を「創る」だけでなく「使う」ことも意識した設計にしています。キレイな耳触りのよいコピーではなく、実際に「腹落ちして使える理念」が理想ですね。経営理念を創っている会社は多くあるけれど、理念経営を実践できている会社は多くはないというのが、肌感覚ですが僕の印象です。ミッション・ビジョン・バリュー・プロミスの4つの英語だけでなく、僕なりにこれらを日本語に置き換えて、「わかりやすいこと」を特に意識して進めるようにしています。
この経営理念の策定には約1年の時間をかけて行いました。ビジネスで何かのプロジェクトを進める時、納期を明確にしてそれに間に合わせるようにすることが当然ですよね。ただ、今回については「腹落ちする」ことを優先して、納期はあまり意識せずに進めるようにしました。現場で使える理念にするために、何か引っかかることがあれば、小さなことでも発言してもらい、その点について徹底的に対話を重ねる。とにかく腹落ちすることを優先させて、深く深く議論したよね(笑)
吉田:相当話しましたね。緊急事態宣言中にオンラインで。
稲垣:これも経営理念を考える際に「あるある」として言われることだけど、作った経営理念が社員に浸透してなかったり、掲げていることとやっていることのアンマッチがよく起きているんですよね。そうなると「経営理念って意味ないじゃん」という話になる。それは僕からすると「皆が体現できない経営理念には意味がない、みんなが腹落ちしている必要がある」ということになります。だからこそ、代表はもちろん、品川CCに関わる一人一人が自分の言葉として言えるようなシンプルでわかりやすいものにすることを特に心がけました。
ーこの吉田さんがおっしゃる腹落ちした部分、刺さった部分って具体的にどこなんでしょうか?
吉田:誰にでも分かる絵になったこと、ストーリーが作成できたことがよかったね。ここは客観的に品川の街やクラブを見てくれた稲垣さんの存在が本当に大きいな。
当事者ではない人間が、こっちの気分を害することなく事実を並べてその構造を絵にするのは素晴らしいし、汗をかいて行動したり、分かりやすい言葉をだしてくる稲垣さんを信頼できた。その信頼関係の構築が、今回のコンセプトの策定が良い方向に向かった理由の一つだと思うよ。
1.5キャリア像と品川CCが目指す「カルチャークラブ」とは?
ー品川CCが今後目指すもの、姿や在り方についてお聞かせください。
吉田:品川CCってSC(サッカークラブ)じゃないんだよね。
稲垣:そうそう、SCじゃなくてCC。
吉田:個人的には今後ともCC、カルチャークラブだということに拘っていきたいんですよね。
吉田:品川CCの特色である、選手への就職支援は長年やってたけど、意外と社会問題だっていうことに気づいたんだよね。
自分は小さい頃にマリノスが好きで、大人になって出会った当時、自分が好きだったマリノスの選手と話していくうちに、仕事に困ってるんだと言われたのがめちゃめちゃショックだったんだ。サインをもらうために駐車場で待ってて、サインをしてくれて自分を幸せにしてくれた人が就職に困っているという現実を見たときに、これに立ち向かおうと思った。
自チームのみならず、他のチームの選手までも支援する。
ただ、すぐセカンドキャリアって言うから難しいのが現実問題として存在するんだ。ずっとサッカーをやってきた選手が、いきなりペンやパソコンを持って「さぁ仕事をしろ」はできない。セカンドキャリアへ向かう助走期間が、選手がこれから歩むキャリアにとって大切なこと。品川CCは選手に寄り添ってあげられるようなクラブでありたいという思いを持ってやっているよ。
吉田:あと、これは世間に提示したいんだけど活躍していた選手の活かし方がもうちょっとあるんじゃないのかな?と思うんだよね。
他にやっているクラブがないから、トライアウトへ行ったりすると嬉しいことに元Jリーガーからの売り込みがあるんだ。うちは公言しているように大前提として仕事第一。ここは本当にぶれなかったからこそ、ブランドになって今があるとすごく感じているよ。
ーコンセプトにあるような、クラブ・企業にあるべき姿はそういった点でしょうか?
稲垣:スポーツクラブには多くの企業が協賛・応援してくれて成り立つものではあるけれど、 単に「お願いします、スポンサーになってください」という話ではない思っています。例えば、ある会社の営業マンが自社の商品を売りに行く時に、「ウチの商品買ってください」というだけではダメですよね。相手の企業のことを調べて、自社の商品がその企業の何の役に立つかを考えて提案することで、商談が成約する。
支えてくれるステークホルダーとクラブがお互いに価値を出していこうと考えているのが品川CCですよね。今回のコロナ禍で、スポーツへの投資に対して企業はよりシビアになると思われる中で、これからの時代はクラブ経営は今までのやり方を踏襲するだけでは限界が来るんじゃないかと思っています。。だからこそクラブとスポンサーがお互いにWIN-WINとなる関係を築くためにも、しっかりと価値提供できるクラブを目指していく必要がありますよね。、
「僕らの活動を応援してください」で成り立っているという状況とは違う。品川CCはそこに新しいクラブの在り方を提示してほしいなと思ってます。
ー話は少し変わりますが、今後品川というホームタウンへの関わり方はどのようなものをイメージしていますか?
吉田:現状だと、港南FC(品川CCの下部組織)を指導したり、地域のイベントに参加することが地域活動として根付いているかな。
稲垣:でも、今は神奈川県リーグなんだよね(笑)ただ品川がホームタウン。どう整理するのかなって疑問を持つ人たちは多いんじゃない?
吉田:拠点は引き続きこっちに置くつもりなんですよね。リーグだけは神奈川県ですけど、こういった地域を超えた取り組みも社会人チームだからこそありなんじゃないかと思っています。
稲垣:あとは、品川CCって「Jリーグ参入を直接の目的にしてない」っていうところも面白いと思ってます。Jクラブになることを優先して大切な理念を捨てることはないよね。ただ、そういった理念のクラブが、結果としてJリーグで戦うことになったら、それはそれで面白いよね。
吉田:百年構想クラブというものがありまして、そこに入ってるとJリーグ入会への優遇措置が存在するんですけど、そこには入らないという拘りを持っています。
ー吉田さんと港南地域のつながり、想いって何ですか?
吉田:宮崎さんとのつながりが大きいかな。中学3年生から週末はずっと宮崎さんのいる品川区港南で過ごすようになったんだよね。
1997年のフランスW杯予選韓国戦試合後、ゴール裏で号泣しているオレを見て慰めてくれたのが宮崎さんで、そこが初めての出会いだったんだ。
宮崎さんは人生において大切なことをたくさん教えてくれたし、生き方自体を方向付けしてくれたんだよ。この出会いがオレの人生において大きなターニングポイントになったと思うよ。
稲垣:地域活性化って外部からコンサルがやってきて進めても意味がないと思ってます。その地域に根ざしている人でないとわからない風習や言語化しにくいならわし。そういったものを体現できる人が中心にいて、足りないものを外部から補うという形になってこそ成り立つはずなんです。その土地に対する愛着があり、地域のために頑張れるかどうかってすごく大事なはず。綺麗事だけではなくてね。そういう意味で、宮崎さんがいて、港南で多くの時間を過ごしてきた祐介がいたからこそできることが多くあるよね。
ーこれから先はこの吉田さんの血を引き継ぐ人が必要ですね。
稲垣:必ずしも誰か1人で祐介の想いを受け継ぐ必要はないと思うんですよね。みんなで想いを受け継いで、時代に合わせて変えていく部分もあるけれど、ここでまとめた想いや理念の部分をぶらすことなくクラブが存続していけばいいし、そのために策定したのが今回のコンセプトということになりますね。
ー他にこれだけは伝えたい、今後描いているビジョンはありますか?
稲垣:カルチャークラブは多様なものを受入れる器であってほしい。最近のニュースなどを見ていると、以前と比べて他人に対して不寛容な世の中になってきているなと感じることが多いです。そんな中でも、スポーツを含めたカルチャー活動というもののは、多様な人たちをつないでいけると思うし、品川CCがそういった存在であってほしいと強く願っています。
様々な人たちをつなぐ存在は世の中にとってもっと大切になるはず。品川の近くには羽田空港という玄関があるし、日本はもちろん世界とも繋がっていく、コネクトする存在に羽ばたいていってほしいなと思います。
ワークライフスポーツについて
ーそもそも今回、なぜ相談をしようと思ったのでしょうか?お話に至った経緯をお聞かせください。
吉田:外部の人に積極的に携わってもらいたかったからかな。あとは稲垣さんの人柄。
稲垣:自分自身、富士ゼロックスで営業をしたあと中小企業診断士として独立して、中小企業の皆さんの経営支援をしながら、ワークライフスポーツというスポーツビジネスに取り組む会社を起業したんだけど、特にプロスポーツクラブの中で働いた経験はないです。ただ、好きなサッカーにビジネスとして携わりたいと考えている時に、祐介から今回の話をもらって。正直、実績のない人に仕事を頼むのは勇気のいることだと思うんだけど、機会を与えてくれたんだよね。祐介が、品川CCがワークライフスポーツにとって最初のお客さんになってくれた。ただただ感謝しかないですね。
ーそうだったんですね。稲垣さんが今後目指す姿って何ですか?
稲垣:スポーツと地域や企業をつなげるところなら、困っていること、課題を解決するために色々な挑戦をしていきたいですね。どこか一つのクラブに属するのではなく、多くのクラブや企業とつながって、それぞれをうまく繋いでいきたいし、クラブがそれぞれの地域に深く根ざした、地域の人にとって大切な存在になるためのお手伝いを自分なりのやり方でやっていきたいなと。
話を戻るけど、やっぱり祐介がロシアから帰る姿が衝撃で(笑)。品川CCに対して本当に深い想いを持ってるんだなと再認識しました。ロシアW杯中は一緒に過ごす時間が多かったから、その時にいろいろ話を聞いて、多くのクラブが目先の利益が優先されたり、客観的な目を中長期的な視野を持ちにくいんだなと感じていたなかで、祐介が考える品川CCへの想いが自分の中でよく響いた感じです。
僕は自分の心が響いた経営者がいるクラブを一緒に盛り上げていきたい。そんな取り組みが自分の性格にも合ってるからそういった仕事の仕方をしていきたいなと。ワークライフスポーツのロゴも旗(フラッグ)をモチーフに作られていて、僕のスタンスは「旗を振る人」でありたい。
だけど、この仕事の仕方やポジションにしっくり当てはまる名前がなくて(笑)。それもそれで現時点では良いかなと思ってる。将来的にこうした仕事をする人が増えて、何か名前がつくと面白いなと。
吉田:因果関係がないし、形に出にくいですからね。
稲垣:金銭的な投資対効果は測りにくいところがまた難しいところだよね。
ーそんな中で実際に相談してみてどうでしたか?効果はありましたか?
吉田:なにやるにしても地面が大切だと思っている。スポンサー獲得にしろ、選手獲得にしろ数値化はできないけど土台が大切なんだ。そういった部分で体感と手応えを感じてる。数値になるものではないし、目に見えるものではないけど、相談する価値は見出せたんじゃないかな。
ーワークライフスポーツに相談する価値とは?クライアントとしてのメリットをお聞かせください。
吉田:頭の中を整理してくれるという部分でも大きな価値があると感じてるよ。
稲垣:おそらく答えは相談された経営者の頭の中にあって、僕の役割はその頭の中にあるものをうまく引き出して、見える形に整えてあげることかなと思います。一人で考えることには限界があるし、身内だけだとアイデアに広がりが出てこない。相談者の立場や業界についての理解がある人が第三者として関わることで、見えてくるものがある。先行きが見えにくい時代だからこそ、改めて「自分は何でこのクラブやってるんだっけ?」という原点を見直す、理念を考える取り組みをすることで、今よりもっと良くなるなと思うクラブはたくさんあると思うんですよね。
吉田:形のない物に投資するのって怖いんですよ。けど、目に見えない効果に対する投資へのリターンがあることをちょっとずつ実感しています。いろんなクラブにワークライフスポーツを知って欲しいと思っていますね。
このメリットは品川CCだけのものだけで終わらせないようにしたいですね。品川CCはノウハウを包み隠さず、日本サッカー全体を良くしたいという想いがあるから、様々なクラブにぜひ取り組んでほしいと思っています。
本来コンセプトワークのが大事なのに、なぜかロゴやエンブレム等のクリエイティブの方が重視されるんですよね。目に見えるデザインありきで動くより、本当に大切なのはコンセプトだと思うんですけどね。
稲垣:本来はそれが望ましいんだよね。全ての活動はコンセプトの上に成り立つから、デザインもコンセプトとつながることで想いを形にしやすいし、より信頼できるて、実際に使えるものになっていくと思うんだよね。
吉田:伝わりにくいものであるのはわかっているんですよ。いろんなクラブでそこを大切にして欲しいなと心から思いますし、土台があるクラブが伸びるんだということを体現してほしいし自分たちでしたいんですよね。この品川CCのケースが徐々に広まっていけばいいと思っています。
稲垣:わかる人には絶対にわかるはずだと信じて(笑)。今回品川CCのおかげでワークライフスポーツにとってのゼロイチを超えることができました。このイチをやらせてくれた事実はとても大きいので、これからどんどん他のクラブの皆さんにも広げていきたいですね。
ー稲垣さん、最後に今後についてお聞かせください。
稲垣:スポーツのためにではなく、街のためにスポーツクラブがある。そんな活動をするクラブが増えてくれれば良いなと思っています。
最近、すごく感じているのはサッカークラブのためにやると、サッカー好きのためだけになるなと。街のためにやると、競技以外の面でサッカーやスポーツがより意味のある存在になることで広がりが出ていくことで今よりももっと大きなノビシロが出てくるようになっていくと思います。
「スポーツクラブが地域のためにどんな役に立てるのか」をテーマに、これからどんどん事例を作っていきたいと思っています。
Jリーグで言えば、鹿島アントラーズの存在がそのいい例で、あのクラブがあったからこそ鹿島という地域の名前が全国に知られた。鹿島以外のの人を連れてくることで新しい需要が生まれ、地域の人に対しての雇用が生まれたといった好循環になることが理想的だと感じています。
「こんなに魅力的なスポーツがどうしてわからないの?」とこちらの価値観で語りかけるのではなく、サッカーに興味のない人でも興味をもってもらうために、どういったアプローチができるかを考え続けることに意味があると思う。
僕はあえて誰もやらない分野をやるのが好きだし、その部分をワークライフスポーツとしてやっていきたい。スポーツクラブがよい意味できちんとお金が廻る。そこで働く人たちの生活基盤としてしっかり機能する。パートナー企業にも地域にも価値を提供することで意味あるお金が落ちるようなクラブが増えること、そういう文化を作っていきたいと心から思います。
ーお二方、ありがとうございました!!
プロフィール
稲垣秀行
株式会社ワークライフスポーツ代表取締役
中小企業診断士
スポーツクラブの経営理念策定や、ブランディング、パートナーシップ構築を通じて、地域コミュニティとの関係性強化をサポート。
スポーツのチカラを生かした街づくり、会社づくり、人づくりに取り組み、スポーツが地域の文化となる社会の実現を目指している。
吉田祐介
慶應義塾大学卒業後、2006年に品川CCを設立。
現在はクラブ代表として全体の運営や経営に携わりつつ、サッカーを中心とした様々なスポーツの普及活動に従事している。